「接遇」と聞くと、あなたはどんなイメージを思い浮かべるでしょうか?「いらっしゃいませ」と笑顔で迎えるお店のスタッフ、完璧な姿勢で応対するホテルのコンシェルジュ…そんな「接客業」のイメージが強いかもしれませんね。
でも、ちょっと考えてみてください。私たちは日々の仕事の中で、どれだけ多くの人と関わっていますね。取引先の担当者、協力会社のスタッフ、そして社内の同僚や上司、部下。彼らとのコミュニケーションも、実は「接遇」の一部なんです。
「うちの会社は接客業じゃないから関係ないよ」なんて思っていませんか?それは大きな誤解です!現代において、接遇は業種や職種を問わず、すべてのビジネスパーソンに求められる必須スキルになってきているんです。
この記事では、「接遇は接客業だけのもの」と考えがちな点を打ち破り、今の時代に求められる新しい接遇の形を、3回にわたる連載でご紹介します。第1回は、特に「社外」との関係性に焦点を当て、クライアントや取引先との打合せにおける接遇の重要性や、その具体的なポイントについて深掘りしていきましょう。
なぜ今、接客業以外でも接遇が重要なのか?
かつては「製品の品質」や「価格」がビジネスを成功させる主要な要素でした。もちろん、今でもこれらが重要であることに変わりはありません。しかし、情報化が進み、グローバル化が進んだ現代社会では、商品やサービスが均質化し、競争が激化しています。そんな中で、企業が他社と差をつけ、顧客に選ばれ続けるためには、何が必要でしょうか?
それが「人」による価値、つまり接遇の質なんです。
考えてみてください。同じような製品を扱っているA社とB社があったとして、A社の営業担当者はいつも丁寧で、こちらの話をよく聞いてくれ、気持ちの良い対応をしてくれる。一方、B社の担当者は、知識は豊富だけど、どこか事務的で、質問しにくい雰囲気がある。あなたなら、どちらの会社と長くお付き合いしたいと思うでしょうか?
答えは明白ですよね。接遇は、単に「感じが良い」というだけでなく、相手に「信頼感」や「安心感」を与え、結果として「この会社と仕事がしたい」「この人に任せたい」という強い感情を生み出します。これは、長期的な顧客関係を築き、ビジネスを成功させる上で不可欠な要素なんです。
特に、直接お客様と対面する機会が少ないと思われがちな企業や部署でも、電話やメール、オンライン会議など、非対面のコミュニケーションにおいても、その言葉遣いや対応の速さ、心遣いが接遇として評価されます。どんな場面でも、「人」が関わる以上、そこには接遇の意識が求められるのです。
クライアントとの打合せ、その「第一印象」が全てを決める?
クライアントとの打合せは、新規の契約獲得はもちろん、既存の関係を強化する上でも非常に重要な場面です。ここで交わされる会話の内容はもちろん大切ですが、それ以上に、皆さんの「接遇」が相手に与える印象は計り知れません。
例えば、打合せの冒頭。あなたはどのような挨拶をしていますか?ただ「〇〇です、本日はよろしくお願いします」と事務的に伝えていませんか?
ほんの少しの工夫で、相手に与える印象は劇的に変わります。
- 入室時・着席時: 相手よりも先に着席せず、相手が着席してから静かに着席する。荷物を置く場所もスマートに。
- 名刺交換: 相手の目を見て、丁寧な動作で差し出す。受け取る際は「頂戴いたします」と一言添え、すぐにしまわずテーブルの上に置くなど、扱いにも配慮する。
- 挨拶: 形式的な挨拶だけでなく、「本日はお忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます」といった感謝の言葉を具体的に加える。
こうした一つひとつの動作や言葉遣いに、相手への「敬意」や「配慮」がどれだけ込められているか。それが、あなたの、そしてあなたの会社の「第一印象」を決定づけるんです。第一印象が悪ければ、その後の打合せがどんなに素晴らしい内容だったとしても、相手の中に拭いきれないマイナスの感情が残ってしまう可能性があります。逆に、良い第一印象を与えることができれば、その後の話もスムーズに進みやすくなるでしょう。
信頼を築く「傾聴」と「共感」の技術
打合せで最も大切なことの一つは、相手の話を「聞く」ことです。しかし、「聞く」と「聴く」は違います。接遇における「聴く」は、相手の言葉の裏にある意図や感情までをも理解しようとする、積極的な姿勢を指します。
「でも、うちは営業だから、一方的に提案しなきゃいけない場面も多いし…」
そう思われるかもしれません。しかし、提案がどんなに素晴らしくても、相手のニーズや課題を正確に把握していなければ、それは「押し付け」になってしまいます。
相手に「この人は自分のことを理解してくれている」と感じてもらうためには、以下のポイントを意識してみましょう。
- 目を見て、頷く: 相手が話している間、適度にアイコンタクトを取り、頷きながら聞くことで、「あなたの話を聞いていますよ」というメッセージが伝わります。
- 相槌の工夫: 単に「はい」だけでなく、「なるほど」「そうなんですね」「よく分かります」といったバリエーションを使い、相手の話への関心を示す。
- オウム返し・要約: 相手の言葉の一部を繰り返したり、話の要点をまとめて確認したりすることで、理解度を示すと共に、相手に「きちんと聞いてもらえている」という安心感を与えます。「つまり、〇〇ということですね?」と確認するだけで、相手は「この人は真剣に話を聞いてくれている」と感じ、信頼感を深めてくれます。
- 質問の質: 漠然とした質問ではなく、相手の課題やニーズを具体的に引き出すような質問を投げかける。例えば、「どのような点で課題を感じていらっしゃいますか?」や「これまで、どんな対策を講じてこられましたか?」など、相手が具体的に話しやすくなるような質問を心がけましょう。
これらの「傾聴」と「共感」の技術は、相手との信頼関係を築く上で非常に強力なツールとなります。相手が心を開き、本音で話してくれるようになれば、より的確な提案が可能になり、ビジネスチャンスも大きく広がるでしょう。
オンライン会議だからこそ意識したい「画面越しの接遇」
コロナ禍を経て、オンラインでの打合せが当たり前になりました。対面とは異なるオンラインならではの接遇も意識する必要があります。
「画面越しだと、相手の反応が分かりにくくて…」
「つい、手元の資料に目がいってしまって、カメラを見て話すのが難しい」
そんな声もよく聞きます。しかし、オンラインであっても、相手への敬意や配慮を示す接遇の意識は変わらず重要です。むしろ、物理的な距離があるからこそ、より意識的に行う必要があります。
- 表情と視線: カメラ目線を意識し、笑顔を心がけましょう。対面よりも少しオーバーなくらいの表情を意識すると、相手に感情が伝わりやすくなります。
- 背景と身だしなみ: 散らかった背景やラフすぎる服装は、相手に与える印象を悪くします。シンプルな背景を選び、清潔感のある身だしなみを心がけましょう。
- 声のトーンと滑舌: マイクの性能にもよりますが、普段より少し大きめの声で、はっきりと話すことを意識しましょう。
- 反応を示す: 相手が話している間も、適度に頷いたり、相槌を打ったりすることで、「聞いていますよ」というサインを送る。オンラインでは、対面よりも意識的に反応を示すことが大切です。
- チャットの活用: 質問や確認事項は、適宜チャット機能を使って補足することも有効です。ただし、メッセージばかりに頼らず、あくまでコミュニケーションの補助として活用しましょう。
オンライン打合せでは、相手に「きちんと対応してもらえている」と感じてもらうための工夫が、対面以上に求められます。これらのポイントを意識するだけで、オンラインでの接遇の質は格段に向上し、相手からの信頼度もアップするはずです。
終わりに:未来の関係を築くための「接遇」投資
クライアントや取引先との関係性は、一朝一夕に築けるものではありません。日々の細やかな接遇の積み重ねが、強固な信頼関係を生み出し、長期的なビジネスの成功へと繋がります。
「なんとなくできているから大丈夫」ではなく、「これで本当に相手に最高の印象を与えられているだろうか?」と常に自問自答し、接遇の常識をアップデートしていくことが、これからのビジネスパーソンには求められます。
今回の記事でご紹介したポイントは、明日からでも実践できることばかりです。ぜひ、今日の打合せから、意識的に取り入れてみてください。あなたの、そしてあなたの会社の未来は、きっとより明るいものになるはずです。
次回は、【第2回:社内編】として、社内のスタッフ間における接遇の重要性とそのポイントについて掘り下げていきます。
札幌の職場内接遇・接遇・ビジネスマナー講師 益子明子
※一部にAI生成画像を使用しています。
